日本では「空き家」という言葉に、暗いイメージがあります。
手放せない、売れない、維持費だけかかる。相続で揉める家族、草が伸びた庭、傾いた屋根。「負動産」という言葉まで生まれたくらいです。
でも、同じ家を外国人が見ると、まったく違うものに映るらしい。
「空き家」が英語圏でそのまま通じる言葉になっている
少し前から、英語圏のインターネットで「Akiya(空き家)」という言葉がそのまま流通するようになっています。翻訳されない。「Akiya hunting(空き家探し)」という言葉まであって、日本の田舎で古い家を探すことがひとつの文化的な行動として認識されはじめています。
背景には、日本の空き家の数があります。2024年時点で全国の空き家は900万戸を超えました。30年前の約3倍です。これだけの数があれば、価格も驚くほど安い。100万円以下、なかには数十万円という物件も珍しくありません。
コロナ禍のあと、母国で住宅を買えなくなった外国人の間で日本の空き家への関心が急速に高まりました。アメリカでもカナダでもオーストラリアでも、住宅価格は高騰し続けています。そこへ、円安で割安になった日本の安い古民家の情報が届く。「これ、買えるんじゃないか」となるのは自然な流れです。
外国人が空き家に感じる価値
外国人が日本の空き家を魅力的に感じる理由は、私たちの「当たり前」とずれているところが面白いと思います。
外国人が特に好むのは、畳の部屋や伝統的な日本家屋です。日本人にとっては手入れが大変と敬遠されがちな砂壁や土壁も、外国人にとっては非常に魅力的に映ります。庭付きの物件を希望する外国人も多く、日本の自然と文化を存分に楽しめる環境を求めています。
そして、残置物。日本では「荷物が残ったまま」はマイナス要素ですが、外国人の購入者にとっては「お宝探し」になるそうです。古い陶器、民藝品、昭和の家具——捨てられるはずだったものが、誰かの目には輝いて見える。
日本では外国人でも日本人と同様に不動産の所有権を取得でき、土地についても所有権が認められています。永住権や日本国籍の有無、ビザの種類による規制もありません。これも大きい。多くの国では外国人の不動産取得に制限がありますが、日本は例外的に開かれています。
動き始めた人たち——3つの事例
アレン・パーカーさんの「Akiya & Inaka」
アメリカ人のアレン・パーカーさんがAkiya & Inakaを立ち上げたのは2020年8月のこと。コロナ禍で東京在住の外国人たちが「人を気にせずに過ごせる場所に行きたい」と話しているのを聞いたことがきっかけでした。
この4年でサービスを利用した客層の上位はアメリカ人・オーストラリア人・日本在住の外国人で、年齢層は40〜60代が中心。購入が成立した地域は群馬県、静岡県、京都府、広島県、長野県、栃木県、埼玉県と多様です。
印象的な案件があります。外資系企業に勤めるアメリカ人が高級車で現れ、ロッククライミングセンターを作りたいと言う。最終的に榛名山の近くで明治時代に建てられた300平米近くの物件を、驚くほどリーズナブルな価格で購入しました。榛名神社の神職が住んでいた家で、神社の飾り物などの残置物があるまま買い取ったそうです。
クロサワ氏とストッカーマンズ氏の「Akiya Mart」
北米出身の2人が2023年6月、資金を持ち寄り九州の別府にある90平方メートルの廃屋を約630万円で購入しました。リノベーションしてAirbnbで貸し出したり、自分たちの休暇の宿にしたりする目的です。
彼らは自身も全国各地で6軒の家を購入し、2024年には外国人が日本で空き家を探すためのウェブサイト「Akiya Mart」を立ち上げました。
カナダ人エリック・マカスキルさん
カナダ出身で以前は家族とともにバリ島で暮らしていたエリック・マカスキルさんは2021年、約345万円で長野県の空き家を購入しました。日本の田舎で古い家を修復するという長年の夢をかなえるために。バリ島から長野へ。この移動の軌跡だけで、彼が何を求めていたかが伝わる気がします。
「田舎」も「空き家」もネガティブワードだ、という指摘
アレン・パーカーさんがインタビューで言っていた言葉が、頭に残っています。
「日本では残念なことに田舎も空き家もネガティブワードです。空き家は放置され、崩れかけている。田舎も交通の便が悪い、仕事がない、若い人がいない……とネガティブなイメージばかり。私はこの2つの言葉をリブランディングしたいという思いでこの活動を続けています」
これは日本人の私には刺さる言葉です。地方に暮らしていると、どうしても「ここは何もない」という目線になりがちです。でも外から来た人の目には、同じ景色が「職人の技が残る家」「庭石の美しい古民家」「静かな山村」として映っている。
懸念もある
外国人による不動産購入が広がるなかで、懸念の声もあります。
都心のタワーマンションや高級住宅地では、短期転売を前提とした取引が増えており、「実際に住みたい人が買えない」という事態も生じています。自衛隊基地や水源地周辺で外国資本による土地取得が報じられ、安全保障上の懸念も強まっています。
2025年11月、政府は不動産登記に所有者の国籍記入を義務付ける方向で調整に入ったと報じられています。制度が追いついていない部分があるのは確かです。
ただ、地方の空き家を買って丁寧に使ってくれる外国人と、都市部の新築マンションを短期転売目的で買う外国人投資家は、かなり性格が異なります。ひとくくりに「外国人の不動産購入」として語るのは、少し乱暴かもしれません。
地方にいる私が思うこと
日本全国に900万戸の空き家があります。地方では今後もその数は増え続けるでしょう。
「誰かに使ってもらえるなら、外国人でも構わない」と思う地主や相続人は、きっと増えていきます。行政の空き家バンクだけでは追いつかない現実がある中で、アレン・パーカーさんたちのような民間の動きは、確かに何かを動かしています。
私が住む地方でも、使われていない家や空き地が増えています。誰かの「負動産」が、別の誰かの「宝」に見える。その視点の違いを、もう少し活かせる仕組みがあればと思います。
「雲水日記」では、移住・空き家・地方の暮らしについて書き続けていきます。
